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正信念仏偈(しょうしんねんぶつげ)【32】

正信念仏偈(しょうしんねんぶつげ)【32】

善導独明仏正意
矜哀定散与逆悪

天善導(ぜんどう)ひとり仏の正意(しようい)をあきらかにせり。
定散(じようさん)と逆悪(ぎやくあく)とを矜哀(こうあい)して、
光明(こうみよう)・名号(みようごう)因縁をあらわす。

(意訳)
善導大師(ぜんどうだいし)ただひとり
釈迦の正意(しようい)をあかしてぞ
自力の凡夫(ぼんぷ)をあわれみて
ひかりとみなのいわれとく

【正信念仏偈32】~善導(ぜんどう)大師の教え①~

「ぜんどうどくみょうぶっしょうい~♪」

お正信偈の後半にひときわ音が上がる一段、ここから善導(ぜんどう)大師の教えに入ります。善導(ぜんどう)大師は六一三年に誕生され、道綽禅師(どうしやくぜんじ)から直接、お念仏の教えを学ばれました。唐の時代であり、中国仏教の黄金期でした。天台宗、法相宗、三論宗など、それぞれの宗派の祖師は、みなこの時代に生れた方でした。なかでも西遊記のモデルになった玄奘三蔵(げんじようさんぞう)は有名です。ただし、このように多くの高僧が出た時代であったにもかかわらず、浄土の教えは、その真意が理解されていませんでした。とくに問題となったのは、『観無量寿経』(かんむりようじゆきよう)に説かれた阿弥陀仏の浄土をどう理解するかでした。

ある宗派では、阿弥陀仏の浄土は智慧をきわめた聖者だけが往生できる、高いさとりの境地だと理解しました。またある宗派では、浄土は凡夫でも往生できる、程度の低い世界だと考えました。これらは正反対のようですが、凡夫ではさとりの世界にいたれないと考えていることでは変わりません。これらの諸師に対して、善導大師は、阿弥陀仏の浄土は凡夫をすくう大悲の世界であり、だからこそ、まことのさとりの境界だと理解されました。

凡夫が往生できる浄土は、程度の低い境界でしかないという諸師の理解と、凡夫をすくう浄土だからこそ、さとりの境界なのだという善導大師の理解。なぜこのように異ったのでしょうか。それは玄奘三蔵(げんじようさんぞう)らの諸師が「いかに自らの智慧(ちえ)をきわめるか」という発想でお経を読まれたのに対して、善導大師は「仏さまの慈悲はどこにきわまっているか」という観点でお経を読まれたからでした。ひとつの図形がアヒルにもウサギにも見えるように、ひとつのお経も読む人の心によって、聞こえてくるものがまったく異るのですね。

「なぜ阿弥陀さまは立っておられるのかな?」

先日、日曜学校で子どもたちに聞いてみました。大乗仏教では、仏さまはうつり変わらない真理の象徴として、ふつうは坐像で表します。しかし浄土真宗ではかならず、立ちすがたで表します。それはなぜか?ということです。ある女の子が答えてくれました。

「とおくまで、見通すためだとおもう!」

本当にそうですね。座ってながめていたのでは目の届かないものがいる。仏のさとりにもっとも遠いものをすくうために、阿弥陀さまは立ちあがっておられるのでしょう。

そういえば運動会でも、よくそのような光景に出遇います。とくにお父さんがたですが、けんめいにビデオカメラをかまえておられます。手ブレしないよう、見逃さないよう、集中して。けれど、そんなお父さん方も、わが子がバターン!と転んでしまうと、思わずガバッと立ちあがってしまいます。「おとうちゃん助けにきて!」と求められたわけではありません。しかし、求められるよりもまえに、動いてしまうのです。目のまえで傷つき、涙を流している小さないのち。その子の痛みは、親の痛みだからですね。弱ければこそ、まっさきに。傷ついておればこそ、より深く。愚かなればこそ、ほおっておけない。それが慈悲というものではないでしょうか。

「善導ひとり、仏の正意をあきらかにせり」

阿弥陀さまの浄土は、仏のさとりからもっとも遠い凡夫のために、建てられている。善悪の見分けもつかず、愛するものすら傷つけずには生きられない凡夫のために。だからこそ、浄土は仏さまの慈悲のきわまった、さとりの境界であることを、善導大師はただひとり明らかにされました。浄土の教えは、自らの智慧(ちえ)をきわめていく道ではなく、仏の慈悲のきわまりどころを、教えるものだったのですね。凡夫のための慈悲、私のための浄土であることを、ともにお聞きかせいただきましょう。

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